第19回神経組織培養研究会 9/6/03
シュワン細胞の培養
東京都神経科学総合研究所分子神経病理 渡部和彦
成体マウス後根神経節からのシュワン細胞の培養
1.成体マウス(我々は4-8週齢を用いている)5匹をエーテル深麻酔により殺す.
2.背部の皮膚をはがした後,脊柱と脊髄を含む後背部組織を採取し10 cmペトリ皿に移してPBSで洗う.
3.腹側から脊柱を切り放し,脊髄を露出させ,ピンセットで脊髄を取り除く.頚髄から仙髄にわたり20対余りの後根神経節が顔を出すので,これらをピンセットで1つずつ取り出し,培養液(5%FBS, ペニシリン・ストレプトマイシンを含むDMEM)のはいった6 cmペトリ皿に入れ,付着した血液成分と周囲の結合組織をできるだけ取り除く.
4.後根神経節を5% FBS, 0.125% collagenase (Worthington Biomedical; CLS-1), 40 unit
dispase (Collaborative #40235)を含むDMEMに移し,37oCで1時間インキュベートする.
5.反応液を10-15回やさしくピペッティングしたのち,ナイロン・メッシュまたはCell strainer (Falcon #2360)に通して細胞を分散させる.
6.1,000回転5分遠心し,細胞沈殿を培養液5 mlで洗う操作を2回繰り返す.
7.細胞沈殿を培養液5 mlに浮遊させ,あらかじめ培養液を9 mlずつ入れてある10 cm Poly-L-lysine (mol.wt.>300,000, Sigma #P1524) 塗布ペトリ皿5枚に1mlずつ分注し,37oC,5%CO2で培養を開始する.この時点で,浮遊液は大量のミエリン塊を含んでいるので白濁している.一度に大量の培養が必要ない場合は,ミエリン塊を含んだ処理途中の細胞をそのまま凍結保存する (10% dimethylsulfoxide/40% FCS/50%DMEM).解凍後少なくとも70%程度の生細胞の回収率は期待できる.
8.2日間静置培養後,浮遊しているミエリン塊を培養液で3回洗浄除去する.残った付着細胞を位相差顕微鏡でみると,丸い大きな神経節ニューロンがすでに神経突起を伸展させており,小形の細胞はシュワン細胞と線維芽細胞からなっている.シュワン細胞を含む初代混合培養系は以上の通りであるが,シュワン細胞の純培養を得るためには引き続き以下に記すcomplement-mediated cell lysisを行って,混在する線維芽細胞を除去する.
9.ペトリ皿に付着し残っている細胞を10 cmペトリ皿あたり5 mlの0.05%トリプシン-1mM EDTA液で37oC,10分間保温,0.5
ml FBSを加えてトリプシンを不活化したのち細胞をはがし,1,000回転5分遠心し細胞を集める.細胞を抗マウスThy-1.2抗体(F7D5, Serotec #MCA02;
1,000倍希釈)を含む培養液1 mlに再浮遊させ,30分氷上静置したのち,遠心し細胞を集め上清を捨てる.さらにこの細胞をウサギ補体(Cappel #55866; 10倍希釈)を含むDMEM 1 mlに再浮遊させ, 37oC,45分保温後,遠心し細胞を集め上清を捨てる.細胞を培養液に再浮遊し,新しい10 cm Poly-L-lysine塗布ペトリ皿にまいて培養を継続する.以上の操作を2日おいて2回以上繰り返すことにより,細胞膜にThy1.2抗原を発現している線維芽細胞のほとんどはcell lysisにより姿を消す.また,神経節ニューロンもそのほとんどが上記培養操作により3週間以内に消失し,結果的に95%以上純粋なシュワン細胞の培養系を得ることができる.
参考文献
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